日本で昔から食べられてきたように見える野菜の中にも、もともとは外国を原産地とし、中国や朝鮮半島、東南アジア、ヨーロッパなどを経て日本へ伝わったものが数多くあります。大根やナスのように古代から食べられてきた野菜もあれば、じゃがいもやトマトのように江戸時代になってから伝わったものもあります。

では、日本にはどんな野菜が、いつ、どこから伝わってきたのでしょうか。縄文・弥生時代から明治時代まで、現在身近に食べられている野菜を中心に、おおよその渡来時期を年代順に見ていきます。※野菜の渡来時期や経路には諸説があります。特に古代以前のものは、遺跡から発見された種子や文献などをもとに推定されているため、おおよその時期としてご覧ください。

日本に早く伝わった野菜は?

日本に伝わった時期が特に古いと考えられているものには、ユウガオ、里芋、大豆、マクワウリなどがあります。中には縄文・弥生時代の遺跡から種子などが見つかっているものもあり、日本人は稲作が広く行われる以前から、さまざまな植物を食料として利用していました。

現在「夏野菜」として食べられているものに限って見ると、ユウガオやマクワウリなどは非常に古くから日本で利用されていた野菜です。一方、トマト、唐辛子、とうもろこし、カボチャなどはずっと新しく、大航海時代以降に世界各地へ広がったのち、日本へ伝わっています。

野菜が日本へ伝わった時代の一覧

時代 主な野菜
縄文・弥生時代 ユウガオ、里芋、大豆、マクワウリなど
古墳〜飛鳥時代 ショウガ、にんにく、冬瓜など
奈良時代 大根、ネギ、ナス、エンドウ、そら豆など
平安時代 カブ、レタス、ごぼう、らっきょう、きゅうりなど
室町〜安土桃山時代 スイカ、カボチャ、唐辛子、とうもろこし、じゃがいもなど
江戸時代 ほうれん草、さつまいも、トマト、孟宗竹、イチゴ、白菜など
明治時代 玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、オクラ、ピーマンなど

縄文・弥生時代から食べられていた野菜

文字による記録が残っていない時代なので、正確な渡来年代を決めることはできません。しかし、遺跡から発見された種子などによって、日本ではかなり古い時代からさまざまな植物が利用されていたことが分かっています。

  • ユウガオ:縄文時代の遺跡から種子が見つかっており、非常に古くから日本で利用されていたと考えられています。
  • 里芋:東南アジア方面を起源とする作物で、日本には稲作が広まる以前から伝わっていたと考えられています。
  • 大豆:現在の枝豆も大豆を未成熟な状態で収穫したものです。日本へは弥生時代初期ごろ、中国から朝鮮半島を経て伝わったとする説があります。
  • マクワウリ:メロンの仲間で、縄文・弥生時代の遺跡から種子が発見されています。古代にはすでに日本で食べられていたと考えられています。

古墳・飛鳥時代ごろまでに伝わった野菜

中国大陸や朝鮮半島との交流が活発になるにつれて、日本には野菜だけでなく、栽培方法や食べ方も伝えられるようになります。ただし、この時代の野菜については正確な渡来年代が分からないものも少なくありません。

  • ショウガ:熱帯アジア原産と考えられ、中国などを経て古代の日本へ伝わったとされています。
  • にんにく:中央アジア付近を原産地とし、中国などを経て古代に日本へ伝わったと考えられています。
  • 冬瓜(とうがん):熱帯アジア原産とされ、古代に中国などを経て日本へ伝わったと考えられています。
  • ニラ:東アジアで古くから栽培され、日本でも古代から食べられていました。正確な渡来時期についてははっきりしていません。

奈良時代に広まった野菜

奈良時代になると文字による記録が増えるため、野菜が当時すでに食べられていたことも分かりやすくなります。現在の和食に欠かせない大根やネギなども、この頃にはすでに知られていました。

  • 大根:古代に中国などを経て伝わったと考えられ、『日本書紀』にも大根を指すとされる記述が見られます。
  • ネギ:中国から伝わったと考えられ、奈良時代にはすでに日本で利用されていました。
  • ナス:インド周辺を原産地とし、中国を経て日本へ伝わったと考えられています。奈良時代には栽培されていました。
  • エンドウ:西アジア方面を原産地とする古い栽培植物で、日本には8世紀ごろ、中国から伝わったとされています。
  • そら豆:西アジアや北アフリカ方面に起源を持ち、中国を経て奈良時代に伝わったと考えられています。インド僧によってもたらされたという説もあります。

平安時代までに伝わった野菜

平安時代になると、中国から伝わった植物の名前が本草書や辞書などにも見られるようになります。現在ではごく普通の野菜であるカブ、ごぼう、らっきょうなども、この頃までには日本で知られていました。

  • カブ:古代に中国などから伝わり、奈良・平安時代には栽培されていたと考えられています。
  • レタス:中国を経て古代の日本へ伝わり、「ちしゃ」と呼ばれていました。現在一般的な玉レタスとは形が異なる種類です。
  • からし菜:中国などを経て伝わり、平安時代の本草書にも記録が残されています。
  • ごぼう:中国から薬用植物などとして伝わり、平安時代には日本で知られていました。
  • らっきょう:中国原産とされ、平安時代までには日本へ伝わっていたと考えられています。
  • きゅうり:インド周辺を原産地とし、中国を経て日本へ伝わりました。古代から知られていましたが、広く食べられるようになるのは後の時代です。

室町・安土桃山時代に伝わった野菜

15世紀末以降、ヨーロッパ人がアメリカ大陸へ進出すると、アメリカ原産の植物が世界中へ急速に広がっていきました。16世紀にポルトガル人などが日本を訪れるようになると、それまで日本にはなかった野菜も次々と入ってきます。

  • スイカ:アフリカ原産とされ、中国などを経て日本へ伝わりました。渡来時期には諸説がありますが、室町時代から江戸初期にかけて広まったと考えられています。
  • カボチャ:アメリカ大陸原産。16世紀中ごろ、ポルトガル人によって東南アジア方面から日本へ伝えられたとされています。「カボチャ」という名前はカンボジアに由来するともいわれます。
  • 唐辛子:中南米原産。コロンブス以後ヨーロッパからアジアへ広がり、日本には16世紀ごろに伝わったと考えられています。日本への伝来経路には複数の説があります。
  • とうもろこし:アメリカ大陸原産。16世紀後半ごろ、ポルトガル人などによって日本へ伝えられたとされています。当時のものは現在一般的なスイートコーンとは異なります。
  • じゃがいも:南米アンデス地方原産。16世紀末から17世紀初めごろ、ジャワ島のジャカルタ付近を経て日本へ伝わったとされています。「じゃがいも」の名も「ジャガタラ芋」に由来するといわれます。
  • 春菊:地中海沿岸を原産地とし、中国で野菜として発達したのち、日本へ伝わったと考えられています。

江戸時代に伝わった野菜

江戸時代には長崎を通じた海外との交易だけでなく、琉球や中国を経由して入ってくる植物もありました。ただし、現在では普通に食べている野菜でも、伝来した当初は観賞用だったものもあります。トマトやイチゴはその代表です。

  • 人参:東洋系の人参は16〜17世紀ごろまでに中国から伝わったとされます。現在多く栽培されている西洋系の人参は、主に明治時代以降に普及しました。(原産:中央アジア付近)
  • ほうれん草:西アジア原産。江戸時代初めごろに中国から東洋種が伝わり、明治時代には西洋種も導入されました。
  • さつまいも:中南米原産。17世紀初めに中国から琉球王国へ伝わり、その後、薩摩などを経て日本各地へ広がりました。
  • トマト:南米アンデス地方原産。17世紀ごろに日本へ伝わりましたが、当初は主に珍しい観賞植物として扱われ、食用として広く普及するのは明治以降です。
  • 孟宗竹(モウソウチク):中国原産。1736年に中国から鹿児島へ導入されたものが全国へ広がったという説がよく知られていますが、それ以前に日本へ入っていたとする説もあります。現在よく食べられる大きなタケノコは、この孟宗竹のものです。
  • イチゴ:現在栽培されるイチゴの仲間は、江戸時代末期の1830年代ごろにオランダ船によって持ち込まれたとされています。当時は「オランダイチゴ」と呼ばれました。
  • 白菜:中国原産。江戸時代後期には日本へ伝わっていましたが、本格的な栽培が始まったのは明治時代以降です。

明治時代に広まった野菜

明治時代になると、政府による西洋農業の導入とともに欧米から多くの野菜や種子が持ち込まれました。現在では日本の食卓に欠かせない玉ねぎやキャベツなどが本格的に栽培されるようになったのも、この時代です。

  • 玉ねぎ:明治初期に欧米から種子が導入され、北海道などで本格的な栽培が始まりました。
  • キャベツ:江戸時代にも観賞用の仲間が伝わっていましたが、現在のような食用キャベツの本格的な栽培は明治時代以降です。
  • ブロッコリー・カリフラワー:明治初期に欧米から導入されました。ただし、一般家庭に広く普及するのは昭和になってからです。
  • オクラ:アフリカ原産。明治初期に日本へ導入されましたが、広く食べられるようになるのは後の時代です。
  • ピーマン:唐辛子の仲間で、明治時代に日本へ導入されました。一般家庭に普及したのは第二次世界大戦後です。

日本の野菜は海外との交流によって増えてきた

こうして時代順に見てみると、「昔からある日本の野菜」という印象の強いものでも、その多くが長い時間をかけて海外から日本へ伝わってきたことが分かります。古代には中国や朝鮮半島から、16世紀以降にはポルトガルやオランダなどとの交流を通じて、新しい野菜が加わっていきました。

さらに、野菜は日本へ入ってきただけで現在の姿になったわけではありません。日本各地の気候や食文化に合わせて栽培方法が工夫され、品種改良が重ねられた結果、大根、カブ、ナス、ネギなどには数多くの地方品種が生まれました。野菜の歴史をたどると、日本の食文化そのものが海外との交流と、その後の日本独自の工夫によって形づくられてきたことが見えてきます。